竹かご職人 内原 聖次さん 由季さん ご夫妻

今治市玉川町鈍川、静かな山里に内原さん一家は暮らす。ご主人の聖次さんは竹かご職人。
妻 由季さんは土鍋でご飯を炊き料理をする。子供たちは虫が大好き。毎日自然の中を力いっぱい走り回る。ここには私たちが忘れかけていた大切な暮らしがある。
徳島出身の内原さん夫妻は愛媛県内の電機メーカーに勤務していた。毎日深夜まで働き出張も多くとにかく忙しかったという。仕事に追われる生活の中だんだんと「自然と向き合う仕事がしたい」と思うようになってきた。そんな時、一冊の雑誌の内容が目に留まる。“竹かご職人の特集”人生の転機だった。サラリーマンを辞め、竹細工の修行のため職業訓練校のある大分県へ家族で移住することを決意する。修行を終え5年後、再び愛媛に引っ越した。愛媛には移住というよりも「帰ってきた」という感覚だったそうだ。縁あって移住した鈍川地区。紹介された築80年の古民家は台所を土間に戻し昔ながらの家にリフォームした。
内原さんの台所には聖次さんがつくった竹製の味噌漉しやザルが整然と置かれ、その佇まいは美しい。多くのファンをもつ聖次さんの竹製品は全国から注文が入るという。由季さんは妊娠、出産をきっかけに食の大切さをあらためて見直してきた。手作りの味噌やしょうゆなど調味料は厳選した本当に良いものを。余計なものを足さなくても十分においしい料理はできる。引き算の生活だ。忙しい現代人は、たくさんの情報に振り回され、便利なものや早いものを選ぶ。しかし、結局はその便利なものを使って生まれた時間でまた別のことをする。足し続ける生活には終わりがない。そのことに気がつくとどこか虚しくなる。「まずは、自分たちの足元を見ること。今の人は難しく考えすぎていますよね。子供に何を食べさせたいか、それを考えたら答えはすぐに出ます。」由季さんが笑顔でそう語った。都会にも田舎にもそれぞれ良さがあって、その中で自分が何を優先するかだ。「田舎暮らしは人との関わりが嫌だという人にはおすすめはできない」と二人は笑う。確かに田舎に行けば行くほど人との関わりが濃密になる。二人は、地元の行事には積極的に参加し交流を欠かさない。そうやって地域に溶け込もうとする姿勢は、周囲の人たちの心を動かした。内原家の玄関先には、ご近所さんから色々なおすそ分けが届く。家で採れた野菜や果物。なんと、うさぎまでも届いたというから驚き。うさぎはペットとして内原家の大切な家族だ。
聖次さんは竹かごを通じて昔ながらの道具を。由季さんは昔ながらの食を。食べること、働くことは、生きることにつながっている。内原家はこの鈍川という土地で力強い根っこを張って生きている。
※この記事は、2015年に今治市が発行した「今治スタイルVol.01」の掲載内容を一部修正したものです。 現在は聖次さんは竹細工とともに山仕事を、由季さんは料理教室をされておられるそうです。