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二人三脚で築いた 自分たちらしい島暮らし【大島】

二人三脚で築いた 自分たちらしい島暮らし【大島】

 愛媛県今治市と広島県尾道市をつなぐ「しまなみ海道(西瀬戸自動車道)」。大島は、今治の陸地部から出発し来島海峡大橋を渡ってすぐの島です。大島南ICを降り、橋が一望できる亀老山展望公園の麓から海に沿って5分ほど車を走らせると、海辺の宿「結乃屋MITSUBACHI」が見えてきます。カフェを併設した1日3組限定の宿を営むのは、2011年に大島へ移住した、田中敦さん・えみ子さんご夫妻。移住した後に家族が増え、現在は二人の子を持つお二人に、島での暮らしと起業、子育てについてお聞きしました。

大企業のサラリーマン生活から一転、島でのカフェ経営を決意した理由

 田中敦さんは、香川県出身。大学卒業後、大手ハウスメーカーの営業マンとして赴任したのが愛媛県東予地方との出合いでした。忙しいサラリーマン生活の中で、いつしか休日は決まって自然の中でゆっくり過ごすようになったという敦さんは、「のどかな場所でいつかカフェを経営したい」という夢を抱くように。その背中を押したのが、30歳の時に結婚したえみ子さんでした。

 「いつかやろうと思うなら、元気なうちに始めるほうがいいんじゃない?」。えみ子さんの言葉に移住を考え始めたその時、敦さんの頭に浮かんだのが、大島でした。実は敦さん、大島へは仕事やドライブで訪れる機会がよくあったそうで「そのたびに、島をあちこち回りながら、ここに住んだらどんな暮らし方をしようかと空想していました」。

 移住するなら大島がいい、そう思うようになったお二人が訪れたのが、当時すでに行列のできる人気店となっていたパン屋「Paysan(ペイザン)」。移住の先輩でもある店主の求(もとめ)さんご夫妻にいろいろと相談をするうちに、さらにこの土地に惹かれ、大島への移住を決意。移住者の方が以前借りていた家を借りられることに。「住むところができたのだから、とにかく行こう」。異業種でしか働いたことのない二人でしたが、ちょうどカフェ展開を考えていた求さんがカフェを開く夢があるならと声をかけてくれ、古い民宿をリノベーションした「食堂みつばち」で働くことに。店の改築からスタートし、カフェ営業の経験を積んだ後、1年半後に店舗の経営を引き継ぐ形で独立しました。

大島への移住エピソードを話す田中敦さん

島に来てからは、初めてのことばかり。サラリーマン時代よりも忙しいです

 「食堂みつばち」開業から7年。未経験からスタートしたカフェ経営も軌道に乗ってきた頃、田中さんご夫妻に転機が訪れます。それまで借りていた建物を持ち主の方にお返ししなければならないという状況に。「正直に言えば、ずいぶん悩みました。西日本豪雨災害も重なり、島を出るかどうかまで頭をよぎった時に、数年前まで民宿として使われていた建物に出合ったんです」。目の前に美しい海が広がるこの場所との出合いによって、二人はさらなる挑戦を決めます。カフェと同様に、宿の経営ももちろん未経験。それでも「この建物を見て、ここでもう一度勝負したいと思ったんです」。賃貸物件でも売り物件でもなかったものの、知り合いを通じて持ち主の方とつながることができ、移転開業を実現。民宿&カフェとして新たなスタートを切ったのは2019年のことでした。

 カフェとしてオープンした半年後に宿も開業。「宿の経営は初めてだったものの、カフェをやってきたので割とスムーズに移行できるかなと思っていたけれど、そうでもなかった」と笑うお二人。食堂みつばち時代と同じように3年かかってやっと、年間を通してのお客様の流れがわかってきた気がすると言います。移転翌年からは新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けたものの、「宿営業は始めて間もない段階だったので、そのダメージを比較、実感することは少なかった(笑)」と敦さん。「自然に囲まれているし空間が広いので、それもよかったんでしょうね。3組限定なので、ゆったりと安心して過ごせるというお声もいただきます」とえみ子さんが微笑みます。

 宿としてのおもてなしも集客の方法も、全てが手探り。ご近所さんの畑で無農薬のレモン栽培も始めました。経験がないことにぶつかると、その都度どうしようかと考えては試してみる。その姿勢は移住してすぐの頃と変わらないそう。「島に来てからは休みの日でも閑散期でも、常に何かしている状態です。サラリーマンの時よりも忙しいですよ。繁忙期の夏は、朝から夜中まで常に仕事をしていますし、冬や梅雨時などちょっとお客様が落ち着く時期には、先が不安になることも」。それでも、やってみないとわからない。戸惑ったり悩んだりすることも多いというものの、二人三脚で乗り越えているお二人の姿は充実感に満ちています。

結乃屋MITSUBACHIで提供されているドリンクには、どれも島での縁を感じるストーリーがあります
波の音が心地よいカフェスペースからの眺め

季節や空の色の違いに気づける。島ならではの子育て環境とは

 現在、9歳と6歳の二人の子どもを持つ田中さんご夫妻。「自分が自然に囲まれて育ったこともあって、昔から子どもが生まれたら、自然豊かなところでのんびりと育てたいと思っていたんです。だから、私にとっては起業よりも子育てする環境のほうが、移住した理由として大きかったんです」と愛媛県南予地方出身のえみ子さんは話します。子どもが生まれて、より実感したのは島の人たちの温かさ。「イベントなどで子どもたちの姿を見るだけで喜んでくれるんです。ちょっと子育てがしんどかった時期も、散歩の途中に子育ての悩みを聞いてくれて。また寄りなよと言ってもらえる。島全体で子どもは宝だと思ってくれているのはありがたいですね」。繁忙期には、ご近所のお友だちが子どもたちを預かってくれるなど、島の温かさに助けられているといいます。

 一方で、島内には小児科がないため、子どもが生まれてしばらくは何か気になることがあるたびに橋を渡って市街の病院へ出向いたことも。「予防接種があんなにたくさんあると思っていなくて(笑)。上の子は毎回、陸地部までわざわざ予防接種のためだけに行って帰ってきていたけれど、下の子になると、予防接種は島の診療所で済ませますし、小児科でなくても問題なさそうな症状なら病気にかかってもまず診療所で診てもらうようになりましたね」。大島には小学校が2校、中学校が1校。高校からは島外に出ることになるといいますが「船で通っている子もいるし、自転車でバス停まで行ってバスで橋を渡って通学する子もいます。移住にあたって、小学校があるか、高校があるかどうか、といった教育環境のことを気にする場合が多いけれど、状況を知ったうえで移住する分には問題ないのかなと思っています」。それよりも、孤独になりがちな子育て期にも安心して育てられる環境や多くの人に見守ってもらえるという精神的な安心感のほうが大きいと語ります。

「島で暮らしていると、子育て中のお母さんが孤独感を感じることが少ない気がします」と笑顔で話すえみ子さん

 「空の色が昨日と違うとか、太陽の色が何色だとか、こんな虫がいたとか、子どもたちが自然の変化に気づいて教えてくれます。もちろん、都会と比較すると足りないものもあるけれど、今のところ自然の中で楽しく元気に成長しているので、いいんじゃないかなと思っています」。何かあるたびに一つひとつ自分たちで考え、一つひとつクリアしてきた田中さんご夫妻だからこその力強い言葉には、移住や島暮らしの成功の秘訣が隠されています。

取材日:2022年12月(掲載の情報は取材日時点のものです)

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